■ 車輛 （電気機関車） ■

　このページでは、昭和４６年（１９７１）当時の、岳南鉄道の電気機関車を紹介します。岳南鉄道では、旅客輸送よりも貨物輸送に力を入れていたため、保有していた電気機関車の種類も、小私鉄にしてはバラエティーに富んだものがあります。工場への側線が多く、貨物輸送の比重が大きかった岳南鉄道には、開業時から現在に至るまで、さまざまな形式の電気機関車が入れ替わり存在していました。

　［ＥＤ２７形］　（ＥＤ２７１）

　ＥＤ２７形は、元は国鉄のＥＤ２７形ですが、その前身は南武鉄道の１０００形１００２でした。昭和３年（１９２８）、日立製作所にて製造された、ＢＢ箱形電気機関車です。国鉄に買収後はＥＤ３４形ＥＤ３４２となり、後にＥＤ２７形ＥＤ２７１２と改番されました。働き場所はずっと南武・青梅・五日市線でした。

　昭和４３年（１９６８）に廃車となり、岳南鉄道にやってきて、ＥＤ２７１となります。国鉄時代の晩年に側面の扉が埋められ、窓になっていましたが、岳南では片側のみ扉が復活しています。また、前面窓はHゴム支持に変更されました。

　岳南では当時、最大重量と出力を誇っていましたが、あまり長い期間は働けず、昭和４０年代のうちに廃車となってしまったようです。
　

　［ＥＤ２８形］　（ＥＤ２８１）
　［ＥＤ３０形］　（ＥＤ３０１）

ＥＤ２８１ と ＥＤ３０１　　岳南富士岡

　写真左のＥＤ２８形は、元・小田原急行電鉄（小田急）のデキ１０２１で、昭和５年（１９３０）、川崎車輛製です。この写真ではわかりませんが、車体側面に７つ並んだ、船のような小さな丸窓が特徴で、小田急時代からファンに人気がありました。後にED１０２１と改称され、岳南鉄道にやってきたのは、１５００Ｖへの昇圧が実施された、昭和４４年（１９６９）のことです。岳南では２０年近く活躍し、昭和６３年（１９８８）に廃車となりました。

　写真右のＥＤ３０形は、元はＥＤ３０００形（ＥＤ３０１１）と名乗っていたらしく、昭和２８年（１９５３）帝国車輛製の、岳南鉄道での純粋な新製車でした。デッキ部まで伸びた屋根のひさしが特徴的です。昭和４０年代のうちに廃車となった模様ですが、詳細については把握できていません。


　［ＥＤ３２形］　（ＥＤ３２１）

ＥＤ３２１　　本吉原

　右の写真のＥＤ３２形は、旧・伊那電気鉄道のデキ１０で、昭和２年（１９２７）三菱重工製、１形式１両の車輛でした。標準的な凸形電機ですが、なかなかスマートな姿をしています。国鉄に買収された後、ＥＤ３２１と改番され、飯田線で活躍を続けました。

　岳南鉄道には昭和３５年（１９６０）、６００Ｖに降圧して入線しています。後にパンタグラフを２個に増やし、屋根の短めな凸形電機としては珍しい姿になりました。昭和４４年（１９６９）には再び１５００Ｖに昇圧されて、この当時は元気に働いていたものの、昭和５１年（１９７６）の水害によって江尾に孤立・放置されてしまった後は休車状態となり、結局、平成元年（１９８９）に廃車されました。


　［ＥＤ５０形］　（ＥＤ５０１）

ＥＤ５０１　　車内より

　左の写真のＥＤ５０形は、名鉄（名古屋鉄道）のデキ５０１を譲り受けたものですが、更にさかのぼれば、元々は上田温泉電軌（後の上田丸子電鉄、現・上田交通）のデロ３０１でした。昭和３年（１９２８）、川崎造船所の製作です。昭和１５年（１９４０）に三河鉄道に譲渡され、後に名鉄に合併されることになります。昭和４４年（１９６９）の岳南鉄道昇圧の際に名鉄より借り受け、翌４５年（１９７０）、正式に譲渡されました。

　この写真は、走行する電車の車内から窓ガラス越しに撮ったもので、お見せするのも恥ずかしいのですが、車体の番号の文字も、特徴ある名鉄の書体のままだということがわかりますね。凸形電機とはいえ、ボンネット部が小さいので、箱型電機に近いスタイルをしています。

　貨物輸送量とともに電気機関車の保有台数も多い岳南鉄道でしたから、この日もすべての電機を撮影することはできませんでした。当時、この他にも、豊川鉄道出身のＥＤ２９形、大井川鉄道から転入のＥＤ１０形という、個性豊かな電機が活躍していたはずです。また、この訪問直後には、松本電気鉄道から近代的スタイルのＥＤ４０形２両が転入してきました。そのうち、現在も生き残っているのは、２両のＥＤ４０形と、ＥＤ２９形、ＥＤ５０形の、計４両です。中でもＥＤ２９形（ＥＤ２９１）は、昭和２年（１９２７）の製造ですから、現在は予備機という存在ではありますが、もう７０年以上も現役でいるということになりますね。

（写真は全て昭和４６年８月４日撮影）